熊本の甲子園 [JITOZU_施設]
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写真は、2017年に撮影された熊本駅である。
1991年に水戸岡氏の手によりデザインにより改築された。
前回取り上げた、氏の著作、電車をデザインする仕事によると、そのモチーフは甲子園球場だそうだ。その理由は、"そのときに壮行会を熊本駅で行なったのですが、大勢の人が押し寄せたために選手たちがまったく見えなかったのです。そこで、「(中略)駅にお立ち台を作ってあげよう」"ということから、甲子園球場に因んだ建物としたらしい。
中川理氏の著作、偽装するニッポン: 公共施設のディズニーランダゼイションでは、その土地の名産や名物を積極的に駅舎と取り込んだ公共建築を建築のディズニーランド化として扱っている。
代表的なものとして、五能線の木造駅の土偶駅舎などである。
写真の熊本駅も、そうなのかな?と思ったが、ちょっと違う様に思う。
甲子園球児を、駅舎上に立たせたい。その発想は、地域広報という観点を超え、甲子園球児=地域一丸となって応援する対象という普遍的なテーマを扱っている。
それは地域の内部から生じる特産、名産とは異なり、駅前の高校球児パレードを見たデザイナーの、やっぱ高校野球でしょといった外野からの指摘だ。そこが、ディズニーランダゼーションと一線を画す所以ではないだろうか。
その指摘を、ストレートに表現すると甲子園球場がモチーフになるのだろう。
しかし、歴史的な建造物をモチーフとした建物は多々あるが、球場がモチーフとは、聞いたことがない。しかも言われないと気がつかないほどである。
そういった意味で、"何だか気になる"ことが、この駅舎の目的なのかもしれない。
電車をデザインする仕事: ななつ星、九州新幹線はこうして生まれた! (新潮文庫)
- 作者: 水戸岡 鋭治
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 文庫
電車をデザインする仕事 水戸岡鋭治の流儀 日本能率協会マネジメントセンター刊 [鉄道本]
水戸岡デザイン。この言葉が囁かれるようになって久しい。それは、現代の鉄道にとって、ある種のムーブメントだ。
その、ざっくりとしたイメージは、外装としては、細い線と細い文字、渋目ながら艶のある色合いを用い、鉄道車両としては見慣れない印象に仕上げている。内装としては、木をふんだんに用い、素材を意識させる構成という感じだろうか。
しかし、この本を読むと、それは表面的なイメージに過ぎないことが分かる。
というのも、氏は本書の中で氏のデザインは、パブリックデザインであると述べ、"多くの人が集まって生活する公共空間を俯瞰する"ことで、デザインを施していると言う。
私が、本書から読み解いた俯瞰することとは、鉄道車両をデザインするだけだなく、デザインをきっかけに住民と一体となって地域を盛り上げたり、通勤のちょっとした乗車時間であっても、心地よい最高のデザインを提供するということを考えるためには、まずは状況を俯瞰しなさいということだ。
また、その結果、クライアントや、乗客の"期待値"の高いものを生み出し、全体的な関わる人々のモチベーションを上げることが大事だと読み解いた。
例えば、内装に風土が育てた素材を多用することで、"居心地の良い空間を演出しています。それは、地域活性化の目的があるからです。"ということに繋がると述べる。
つまり、風土の素材、その土地の技で加工することで、地域住民のモチベーションを向上したり、観光客に、地域性を意識させたりと、そういうことを、狙ってデザインを考えているということである。
そして、現在の"量産方式のメーカー主導型"の車両作りでは、プラスチックと鉄の多用により、商品としての個性がない。これを特注品としての個性を持たせるためには、"デザイナー主導型の車両製造"に切り替えべきと主張する。また、製造段階にデザイナーが深く関与することでコスト管理ができ、コストも抑えられるとのことだ。
氏の活動は、鉄道の地域での役割を、地域住民、鉄道会社が一体となって見直すという事を、デザインを通じてファシリテートしていると感じる。その意味で、公共デザイナーなのかも知れない。
いちファンとしては、氏が各地に蒔いた種が、今後、どう花開くのか楽しみである。
電車をデザインする仕事 「ななつ星in九州」のデザイナー水戸岡鋭治の流儀
- 作者: 水戸岡 鋭治
- 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
- 発売日: 2013/11/23
- メディア: 単行本
ATLASからALFA-Xへ [JITOZU_車両]
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写真は、鉄道総研のATLASの車両だ。
ATLASとは、1992年から始まった、次世代新幹線ATLAS計画のことで、 Advanced Technology for Low-noise and AtractiveShinkansen の略称である。
その名の通り、超高速低騒音新幹線を"イメージした計画"であった。
イメージしたとは、何とも概念的だが何も私の言葉ではなく、ある総研の理事の方の言葉だ。
新幹線を実現したキーテクノロジーと今後の研究開発
この文章によると、とかくスピードを追求した計画と語られるATLAS計画だが、それに及ぼず、環境との調和も課題の一つだと分かる。特に高速度では空力音の抑制が大きいようだ。そして上記文章からは、屋根周りのそれは解決しいるが、車体下部の空力音についてはこれからの課題と読み取れる。
これに対して、JR東日本のALFA-X計画では、ディスクブレーキの形状の変更で挑むようだ。
次世代新幹線に向けた試験車両の新造について
線路を走る以上、車輪とレールの摩擦音は避けられない。しかし、ディスクブレーキの形状改良といった地味ながら確実に改善していくことで、高速鉄道の最高峰が見えてくるのではないだろうか。そしてそれが、グローバルスタンダードへの道だと思う。
2019年春に落成する、ALFA-X E956が益々楽しみである。
聖地鉄道 新書y 渋谷申博著 [鉄道本]
本書は、本のタイトル通り、参詣と鉄道の関係にスポットを当て書かれたものである。
私は、この本を古本屋で目にし思わずタイトル買いした。
なぜならば、大抵の鉄道ファンが感じる様に、私もまた、参詣と鉄道の関係に強い興味があったからだ。というのも、この目的のために多くの鉄道が敷設されたことを知っているからだ。
しかし、この本では参詣目的の路線の他に、鉄道でアクセスできる寺社も加え聖地鉄道と名付けている。故に、直接の目的が物資輸送の路線も取り上げられている。
例えば、恐山に向かうには大湊線に乗車する訳だが、この線は本来、大間への軍需輸送用で参詣路線ではない。にも関わらず、本書が大湊線と恐山を取り上げるのは、著者が
宗教史研究家であり信仰対象の紹介に重きを置いているからだろう。
もちろん列記とした参詣路線である、琴電や南海高野線を取り上げ、さらに沖縄モノレールなどの聖地鉄道可能性についても言及しており、そのあたりは楽しめる内容だ。
また、以前、取り上げた井上勝氏が国策として幹線敷設に奔走していた時代に、次々と敷設されていく様を表した聖地鉄道の年表も興味深い。
しかし、やはりこれら鉄道の体系化や、資料による裏付けが無い分、鉄道と参詣の関係の分析も主観的になりがちだ。その点は惜しいが、鉄道で行く寺社ガイドとしては重宝しそうだ。
岩見沢駅の ばんば [JITOZU_施設]
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写真は、岩見沢駅のばんば像だ。
岩見沢駅といえば、最終SL旅客列車が走ったことで知られているが、ばんえい競馬も熱かった様である。
当地には、かつて競馬場があり、ばんえい競馬も盛んに行われていた。
この像は、その関係で馬主会が昭和55年に立てた木彫り像だ。銘板によると、
作者は中川貞司氏。旭川在住の作家で、木彫ナカガワを主宰されている。
その氏による像は、ばんばらしい躍動感があり素晴らしい像だと思う。
などと偉そうに言っているが、私は、ばんえい競馬を、これまでに二回ほどしか
見たことがない。帯広競馬場でのことであった。
初めて見た日は、秋から冬にかけての寒い日だった。レースは30分間隔で行うので、
一先ずあったかい飲み物を飲み、体を温める。
競馬場内はスタンドの中に、馬券売り場、売店などがあるが古さはあるが、
こぎれいで驚いた。そして、あてずっぽうに倍率が真ん中辺りの馬券を買う。
いよいよ、ばんばがゲートに入る段になって、コース脇にでる。脇で見ているのは、
熱心なファンと子供たちで、その中に私も加わった。ゲート近くに足を運ぶと、
ばんばの息遣いが聞こえた。ばんばの大きさがよく分かる。スタートの合図と共に出走。
その進みは、とても緩やかだ。だから、力強い馬の動きを共に歩きながら見ることができる。
重い橇を全身の筋肉を使って、砂を蹴り進んでいく。ここで、差がつき勝負あり!
と思うのは早計で、行く手を、こんもりとした山型の障害が塞ぐ。
山の前後で一旦停止。各馬の差が一気に詰まりレースは分からなくなる。そんな事を
二山の間で繰り返す。結果は最後まで分からないのだ。地元の人によると、この駆け
引きこそ、ジョッキーの力量が出るそうだ。先行して長めに休ませるか、ゆっくり向かい、
その流れでボチボチ行くか。何れにしても山の上り下りの迫力には眼を見張る。
それこそ私が一番感動し、魅せられたシーンだ。
さて、下の画像は、林 拳示郎氏の写真集、BANEIの一葉だ。
初めて見た、ばんえい競馬に胸打たれその場で買い求めたものだ。
私にとっての"ばんえい"、それは、とにかく馬の生命力を、
肌身感じられる競技である事は間違いない。
経営的には厳しい様だが、長く続いて欲しいと願うばかりだ。
井上勝: 職掌は唯クロカネの道作に候 老川慶喜著 ミネルヴァ書房 [鉄道本]
遂に、このテーマの本を読破する日が来た!
というのも大げさだが、井上勝氏は、長州五傑としてイギリスに渡り帰国後、鉄道敷設に尽力した、日本の鉄道の父と呼ばれる人物である。
しかし、その功績を大きく取り上げられる事は少ない。それは鉄道が水道、電気などと同じ様に社会のインフラであり、個人の功績を讃える対象となりにくいからではないかと思う。しかし、鉄道ファンを標榜するのであれば、氏の功績を少しは押さえておきたい。
という事で当本を読み始めた次第です。
さて、本書によると井上氏は脚力に頼っていた日本の交通体系を革め、鉄道のみならず、"汽船と鉄道を軸とした近代的な交通体系の形成を構想した"(プロローグより)とのこと。また、路線のルートについては、地域の殖産、都市の規模を勘案し決定して行く。
事実、本書からは、汽船や陸路で賄える路線については間をそれらで結び、また、路線によっては間の敷設を後回しにするなど、限られた予算の中で1マイルでも延伸しようとする工夫が分かる。
また、本書で大きく主張している点は、これまで、氏は、私鉄の国有化による私鉄排撃論者との見方をされて来たが、そうではなく、"小鉄道会社分立体制の克服"が目標だったという事だ。つまり、小私鉄により細かく分断された路線は、輸送の非効率、経営の困難を招く。鉄道による国勢の強化を目指すには、それらを克服する必要があるのだとの考えだ。
しかし、氏の思いとはうらはらに、1892年、鉄道敷設法制定が制定され、そのタイミングで、氏は鉄道庁長官を退任している。なぜならば、これにより、鉄道敷設が"議会のコントールのもとにおかれることになるからであった。"こうして、我田引鉄と言われる様に、鉄道が政治の道具と化していく。
これこそ井上氏が案じていた事態であった。
さて氏の功績については郷里である萩市の
萩市自然と歴史の展示館にて、展示があるほか東京周辺では、現在は工事のため移設、保管されている東京駅前の像、旧新橋停車場 鉄道歴史展示室や、桜木町の改札側の展示(下図参照。筆者撮影)にて功績の一端を垣間見ることができる。
桜木町の展示によると新橋から横浜間の開業式の際、鉄道頭であった氏は、その始発列車に明治天皇の供奉員として同乗していたことが分かる。
氏の功績は大きく取り上げられることも少ないことは、すでに述べたが、
この状況が今後も大きく変わらないとすれば、この本は、それを知ることができ、現在手にすることができる唯一の本だろう。
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八幡製鉄所 から スペースワールドまで [JITOZU_施設]
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この写真は、東田第一高炉史跡広場からスペースワールド駅を撮影したものだ。
そもそも、私は、"東田第一高炉"をよく知らなかったのだが調べてみて分かったことは、八幡製鉄所の最初の高炉であり1901年に操業を開始した、記念碑的な高炉である事だ。
そして現在は、時代の変遷により製鉄所跡の広大な敷地は再開発地区となり、この高炉を産業遺産として残し、スペースワールドといアミューズメントパークになっている。そのスペースワールドも2017年末には閉園になる予定だ。そして跡地は、アウトレットモールになるそうだ。
小さな漁村から殖産興業の申し子となりバブル期のレジャーを支え、こらからはデフレ消費の下支えと、まさに時代を象徴する土地だと思う。
さて鉄道だが、もともとスペースワールドという駅は無かった。試作中の年代別路線図付き版のJITOZU(下図)によると、1990年以前は、鹿児島本線のルートは、敷地を迂回していたことがわかる。
それを、1999年に再開発の一環として移設された様だ。確かに、ルートも短くなり旅客のメリットも大きいが、移設とは大胆な決定だ。
因みに、スペースワールドの閉園後も、
駅名は残すことが発表されているが、同じく閉園したアミューズメントパークの小田急線、向ヶ丘遊園駅も駅名はそのままだ。
現在の東急電鉄の二子玉川駅もかつて二子玉川園と名残り閉園後15年を経て二子玉川に改称したが、スペースワールド駅も人々の思い出に残っている間は駅名が残るのかもしれない。
星晃が手がけた国鉄時代黄金時代の車両たち 福原俊一著 KOTSUライブラリイ [鉄道本]
星晃氏、誰ぞや?と思われる方もいるかもしれないが、氏は、国鉄の副技師長まで登り詰めた車両設計の専門家である。
その業績は数多あるものの、鉄道ファンにとって一番馴染み深いのは、"旅客車"という言葉だろう。本書の冒頭では、"客車・電車・
ディーゼル動車を一括した用語"として、氏が創作した言葉と紹介されている。それが、今や、日本を代表する鉄道会社の名称となっているのだ。
肝心の本書の内容だが、国鉄時代に星氏が携わった車両について氏との対話からの小ストーリーを挟みつつ、史実に基づき紹介するという形で構成されている。
80系から年代順に並べられた車種だが、中距離列車が好きな私は153系辺りの話から盛り上がってくる。
貫通扉は非貫通編成の車掌二名体制を改善するためだったことや、貫通扉を塗り分けないのは、メンテナンス時の作業性を指摘されての事など、ややもすると時代の流れに埋もれてしまいそうな話が取り上げられる。
本書では、こうした星氏の設計マインドを、あくまでも対話の結果からを取り上げられているため著者の興味対象に依存している。また、その内容も、体系化されているわけではなく、エッセイ的に取り上げられているのみである。私は、少しその点に物足りなさを感じてしまった。
という事で、現在、星晃氏著の"回想の旅客車"を手にしたところだ。こちらについても読後に書感を認めたい。
それにしても本書は、星晃入門としては好著であることは変わりない。
星晃が手がけた国鉄黄金時代の車両たち (KOTSUライブラリ)
- 作者: 福原 俊一
- 出版社/メーカー: 交通新聞社
- 発売日: 2014/11/01
- メディア: 単行本
ローカル線の雄 DD16 [JITOZU_車両]
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写真は、鉄道総合技術研究所のDD16 7号機である。
この形式は、低規格路線の無煙化対応に当たり生産された機体だ。
手持ちの、機関車全百科によると、小海線や飯山線、七尾線などに投入された様だ。
それら路線において、C12,C56と置き換えられていった。
また、貨物輸送がメインのため、SGは非搭載。そして流用部品多数で生産された地味な機体であるが、小型ディーゼル好きには堪らない魅了がある。
全体的には、足回りがスカスカとして不恰好な印象も否めないが、個人的には、セミキャブレターの極端に切り詰められた短い側、つまり上記写真の側から見た構図はバランスの良い美しさを醸し出していると感じる。
残念ながら、私は、鉄道総研の本機を拝見したことは無い。本機は現在、若桜鉄道
に移管され活躍してある様だ。しかも、体験運転ができるという。
若桜鉄道の前身は、国鉄、若桜線である。
低規格路線では無いものの、そのローカル線具合はDD16がよく似合いそうだ。
いつの日か、山陰の鉄道を巡りつつ訪問して見たい。
素晴らしき記念館 日中線記念館 [鉄道紀行]
その際、熱塩駅の日中線記念館を取り上げたが、この夏に短時間ながら、ようやく行くことができた。
(以前の記事は、こちら)
行って見てまず驚いたのが、予想に反して訪問者が多かった事だ。車でしか行くことができないにもかかわらず、15:30ごろの訪問で
4組ほどの見学者がいた。やはり宮崎駿作品を思わせる洋風の駅舎は、何かしらの心の原風景を刺激する様で一見の価値あるということなのだろうか?
また、駅の雰囲気も素晴らしいのだが、展示物も、よく手入れをされており地元の方の愛情を感じる。
そして、展示物のハイライトは、ラッセル車キ100形とオハフ60系客車である。
両車と内部に入ることができる。特にキは、サイドの雪よけ用の大きな板を動かす機構を、内部からじっくり観察することができるといった貴重な体験が可能だ。また、各所、痛みがあるものの比較的綺麗な状態を保っている。
廃止後、廃墟と化してしまい、当時の事も知る由もなくなってしまう路線が多い中、こうした残す取り組みに大いに賛同したい。そして、地元の悲願だった鉄道敷設、廃止後も大切にされていることに誇りさえ感じてしまうり
今後、この取り組みが、次の世代にも引き継がれて行く事を切に願うばかりである。